大判例

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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和32年(う)425号 判決

所論は、原判決は、判示一、において、「被告人は、蒲江町漁業協同組合の専務理事として、組合長を補佐して、同組合事務全般を統括処理していた者であるが、昭和二九年八月三一日右組合から大分県信用漁業協同組合連合会に返還すべき現金二〇〇、〇〇〇円を同組合会計係井下鹿之介から受領して保管中、ほしいままに同年一〇月初旬頃同組合事務所において近藤直治に貸与して、業務上横領した。」と判示している。しかしながら、本件証拠によると、被告人は、昭和二九年八月三一日蒲江町漁業協同組合の大分県信用漁業協同組合連合会に対する金二〇〇、〇〇〇円の債務が弁済期日になつていたのを奇貨として、右組合事務所において右連合会に返還する意思もないのに、会計係井下鹿之介に対しその意思があるように告げ、同人をその旨誤信させて、即時同所において金二〇〇、〇〇〇円の交付を受け、個人的に融資を受ける目的で、これを自己と広瀬忠蔵両名の名義で大分県漁業信用協会に出資したが、融資を受けることができず、右協会から払戻を受け保管中、同年一〇月初旬頃近藤直治に貸与したことが認められるのである。右事実によれば、被告人は、井下から金二〇〇、〇〇〇円を騙取したものであり、被告人の右基金協会への出資、近藤直治への貸与は、騙取した物の処分行為で、このこと自体は横領罪とならない。したがつて、原判決挙示の証拠によれば、被告人の原判示一、の行為については、業務上横領罪と認定するよりは、詐欺罪と認定すべきであるから、原判決には理由にくいちがいがある、というのである。

そこで、検討するに、原判決は所論のとおり判示し、本件証拠によれば、所論のとおり被告人が会計係井下鹿之介に対し欺罔行為をしていることを認めることができる。しかしながら、詐欺罪の成立には他人の占有中の物を自己の占有に移すという要件を必要とし、自己の占有するものに対する詐欺罪は成立する余地はないのであつて、広瀬忠蔵の司法警察員に対する昭和三二年二月一三日付供述調書(枚数八枚の分)同人の検察官に対する同年三月一三日付供述調書、井下鹿之介の検察官に対する同日付供述調書、押収してある定款諸規定規則綴(証第四号)、会議録綴(証第三号)、被告人の司法警察員に対する昭和三二年一月一九日付供述調書、同人の検察官に対する同年三月一三日付供述調書によると、被告人は当時蒲江町漁業協同組合の専務理事として、組合長を補佐し、同組合の事務全般を統括処理し、組合の金銭その他の財産を保管する職務権限を有していたことを認めることができるから、被告人が右組合会計係井下から受け取つた金二〇〇、〇〇〇円は、元来被告人が占有していたものであるから、右のとおり欺罔行為を用いて、これを自己の直接の占有に移しても、その欺罔行為が詐欺罪を構成することはない。したがつて、原判決が、その挙示の証拠によつて、被告人が右のとおり井下から受け取つた右金二〇〇、〇〇〇円を近藤直治に貸与したことを業務上横領罪に当るものとしたことは相当で、原判決には理由のくいちがい、事実誤認その他の違法はなく、論旨は理由がない。

(中略)

職権で調査すると、まず、原判決は、判示四、において、「被告人は、蒲江町漁業協同組合の専務理事として、組合長を補佐して、同組合事務全般を統括処理していた者であるが、昭和三〇年一二月九日頃同組合職員宮脇鉄弥が増野又助から集金した組合鮮魚代金三一〇、〇〇〇円を同人から預り保管中、その頃これを会計係井下鹿之介に交付して、ほしいままに自己のかねて横領していた組合資金三一〇、〇〇〇円の弁償に充当せしめた。」と判示し、その挙示の証拠によれば、被告人が右判示のとおり充当させたことを認めることができる(もつとも昭和三〇年ではなく昭和三一年であるが、誤記と認める。)が、前記論旨第一点に対する判断に記載したとおり、被告人は当時右組合の常務理事として組合の金銭その他の財産を保管する職務権限を有していたものであるから、被告人は充当後も組合経理上の名目は異つても右金三一〇、〇〇〇円を依然組合のために保管しているものであつて、その充当が被告人の組合に対して負担する先の損害賠償債務を消滅させるものであると認められる場合を除いては、被告人が前記のとおり充当させたからといつて、横領罪の成立に必要な領得行為があつたものとはいえず、被告人の右行為は罪とならない。そして、記録に現われた本件証拠上は、右充当が被告人の先の損害賠償債務を消滅させるものであるとは認められない。したがつて、この点において原判決には判決に影響を及ぼす事実の誤認があり、原判決は破棄を免れない。

つぎに、原判決は、判示六、において、「被告人は、昭和三一年九月七日頃蒲江町漁業協同組合事務所において同組合から白岩杉松に対して支払すべき鮮魚代金のないのにもかかわらず、あるように装い、同組合職員佐藤孝をして同日白岩杉松に対する内渡金としての金二五五、〇〇〇円の出金伝票を起票させて、これを同組合会計係井下鹿之介に提示して、同人を欺罔し、即時同所において同人をして同組合の現金二五五、〇〇〇円を交付させて騙取した。」と判示し、その挙示の証拠によれば、右の外形的事実を認めることができるが、前記論旨第一点に対する判断に記載したとおり、被告人は当時右組合の常務理事として組合の金銭その他の財産を保管する職務権限を有していたものであり、右のとおり被告人が交付を受けた金三一五、〇〇〇円も元来被告人の占有していたものであるから、右のとおり欺罔行為を用いて、これを自己の直接の占有に移しても、その欺罔行為が詐欺罪を構成することはない。もつとも、挙示の証拠によれば、被告人は右のとおり交付を受けた金三一五、〇〇〇円をほしいままに同日近藤直治に貸与して横領していることが認められる。したがつて、この点においても原判決には判決に影響を及ぼす事実の誤認があり、原判決は破棄を免れない。

(裁判長裁判官 二見虎雄 裁判官 後藤寛治 裁判官 矢頭直哉)

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